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Storm Boy ストーム・ボーイ/少年とペリカン

オーストラリア映画 (2019)

1964年に出版されたColin Thieleの同名原作の2度目の映画化。下に、1976年版の映画の一場面を紹介する。2019年版の主人公は、10歳のマイクがフィン・リトル(Finn Little)と老齢のマイク〔1976年版の映画には一切登場しない〕。あの、ジェフリー・ラッシュが演じている。題名のストーム・ボーイは、2019年版の映画の説明では、「ペリカンが殺されると、嵐がくる」というアボリジニの言い伝えから来ている。別に、マイクが嵐を呼ぶ訳ではない。少年と野生の動物の交流を描いた映画は、1つのジャンルをつくるほど多いが、この作品では相手が獰猛ではないペリカンのため、「親交」とも言えるほど暖かい交流が描かれ、観ていて微笑ましい。しかも、喜怒哀楽すべてが含まれ、クライマックスも用意され、60年も前の話でありながら、現代の社会問題も取り込まれていて、見事な作品に仕上がっている。

一人の老齢の実業家が、かつて自分が設立した会社が環境問題で社会の反対に遭い、自分の孫がそれに強く同調するのを見て、過去を思い出し、もう一度原点を眺めようとする。実業家の父は、かつて、母と娘を交通事故で同時に亡くし、以後、南オーストラリア州の90マイル・ビーチで、息子と一緒に世の中と隔絶された隠遁生活を送っていた。息子マイクが10歳になった時、地元では鳥獣保護区設立の可否を問う住民投票が行われようとしていた。そんな矢先、ハンターによるペリカンの大量虐殺の後、マイクは母鳥が殺された巣の中で3羽の雛を見つける。特に、その中で一番小さな雛はとても弱っていた。マイクは何とか3羽を救おうと、魚を粉砕した後の汁をスポイトで与え、なんとか生き延びさせることに成功する。雛は、父が毎日漁に出て捕ってくる魚を食べてどんどん大きくなり、マイクは、3羽に名前を付けて可愛がる。その中でも一番のお気に入りは、体が弱く、一回り小さなパーシヴァルだった。父は、ペリカンたちが、自分の捕ってくる魚では賄えないほど大きくなった時、マイクに、自然に帰してやるよう命じる。そのためには、魚の捕り方と、飛び方を教えないといけない。マイクは、別れるのは悲しかったけれど、別れる以上ちゃんと生きていけるよう必死になって教える。そして、それが終った時、別れが待っていた。3羽は飛び立っていったが、翌日、パーシヴァルだけは戻って来た。マイクはすごく喜び、父も1羽だけならと飼うことを許す。マイクとパーシヴァルは、父が時々必需品を買いに行く町まで連れて行ってもらった時、町の人々から歓迎されるが、住民投票が間近に迫っていたので、ハンターからは賛成票を増やそうとする行為だと曲解される。ある日、ハンターが、大量のペリカンを撃ち殺していると、パーシヴァルが止めようとしてハンターを攻撃する。その時は、マイクが間に合って事なきをえたが、その直後に嵐が襲いかかり、漁に出ていた父の小さな漁船は転覆、父が溺れそうになる。それを助けたのは、釣り糸を縛り付けたマイクの帽子を父の元まで運んだパーシヴァルだった。父は、釣り糸に連結された綱を身につけると、マイクとアボリジニの友人が浜辺で綱を引き、父の命を救うことができた。この奇跡的な救出は地元で話題となり、マイクとパーシヴァルは一躍人気者になったが、それがマイクに大きな運命の転換点をもたらす。まともな教育も受けられずに隠遁生活につき合わされているマイクに同情した町の人が集めたお金は、マイクを国で一番の全寮制学校に入れるだけの額に達していた。父は、町の人に説得され、マイクの将来のため入学を決断する。しかし、当のマイクは、強い拒否反応を示し、激しく抵抗する。その挟間にあって、マイクの目が届かなくなった時、再びハンターが殺戮を始め、パーシヴァルが阻止行動に出る。そして、マイクが止めに行くのが一瞬遅れたため、パーシヴァルはハンターに撃ち殺される。その後、父にも、この土地にも愛着を失ったマイクは、全寮制の学校に行き、父を許さず、90マイル・ビーチに戻ることはなかった。そして実業家として成功する。老齢になったマイクは、この過去をほとんど忘れてしまっていた。しかし、自然を大切にしようと願う孫娘に乞われて、パースヴァルの話を進めるうち、彼は自分の体験が如何に貴重なものだったか、そして、父との不和が如何に間違っていたかに気付く。彼は、孫娘を連れて、かつて粗末な小屋のあった跡に連れて行くと、そこから、取締役会での方針を覆す奇策をスマホで発信し、喜んだ孫娘を連れてパースヴァルの銅像を訪れる。それは、ハンターがパーシヴァルを殺したことを知って怒った環境審議会が、鳥獣保護区を2倍の大きさにする決定をした後、記念して設けられたものだった。こうして、パーシヴァルは永遠の存在となった。

オーストラリア生まれのフィン・リトルは、この映画でデビュー・初主演を果たした。2006年6月9日生まれなので、映画撮影時(2017年5月)には マイク役と同じ10歳。オーストラリアの僻地の砂浜をいつも裸足で動き、ペリカンと密に接触し、生きた魚を咥えたりする撮影に堂々と挑み、喜怒哀楽の感情を見事に表現してみせた。オーストラリア出身の子役と言えば、生まれた順に、クリスチャン・ベイヤース、コディ・スミット=マクフィー、エド・オクセンボウルド、リーヴァイ・ミラーが優れた演技を見せてきた。ベイヤース以外はハリウッド進出を果たしているが、フィン・リトルも、ハリウッドで2本製作中。映画界が、これだけの演技力を見逃すはずがない。今後の活躍が楽しみだ。


あらすじ

映画は、老人になったマイケル・キングリーが取締役会での議決に向かう場面から始まる。キングリーを演じるのは、オスカー俳優のジェフリー・ラッシュ。撮影時65歳なのに、とても老(ふ)けて見える。オスカーをとった『シャイン』(1996)〔撮影時43歳〕や、『恋におちたシェークスピア』(1998)〔46-47歳〕の時は、まだ若かった。そういえば、『パイレーツ・オブ・カリビアン』では老けていたが、特殊メークでごっちゃになって気付かなかった。こうして改めてまじまじと見ると、とても老けている〔メイク?〕。キングリーがかつて創立した鉱山会社は、娘を経て孫に引き継がれようとしている。しかし、孫のマデリンはまだ18歳に達しておらず25%の株式を所有しているのに取締役会での議決権がない。そして、会社を牛耳っているのは、キングリーの亡き娘の夫だった男。マデリンの父にあたる。この鉱山会社は、オーストラリア西部でピルバラでの鉱山開発を巡り、環境破壊だとする反対運動に直面していた。それでも開発を進めるべきかどうかの議決がこれから行われるのだ。キングリーは取締役会に出席するため、ドナウ川の旅行からわざわざ帰ってきたところで、長時間のフライトによる疲れがまだ残っている。車内で隣に座っているのは、娘婿で社長のマルコム・ダウナー。「マディーが会いたがってます」の後に、「母のことが寂しくて」と言うので、マデリンが母を亡くして日の浅いことが分かる。車が本社の前に着くと、そこにはプラカードを持った人々とマスコミが待っていた。「ピルバラに鉱山は要らない! ピルバラから手を引け!」。キングリーにとっては初耳なので、「あれは何だ?」とダウナーに尋ねる(1枚目の写真、「現在」の場面には、写真の左下にを付けてある)。車から降りた2人に、報道陣が一斉にマイクを向ける。「どうでもいいんですか? 罪悪感はないんですか?」。ビルの中に入ったキングリーに孫のマデリンから携帯が入る。「おじいちゃん、止めてよ」。「どういうことだね?」。「私のお父さんが何しようとしてるか 知ってる? 私が18で、取締役会にいたら、止めるわ。リンクを送る」。学校内では携帯禁止なので、教師に見つかって取り上げられる。しかし、メールは届き、キングリーはピルバラに関する重大な議決が今日行われるとの記事を見ることができた(2枚目の写真)。取締役会はすぐに開催される。そこには、旧知の友人カルとジュリーの2人もいた〔後で、重要な役割を担う〕。キングリーの席はちょうど窓側。外は嵐のような悪天候。彼は、昔を思い出し、窓に叩きつける雨を眺める。すると、突然ガラスが割れ、猛烈な風が中に吹き込む(3枚目の写真、矢印は身動き一つせずに嵐を見ているキングリー、左の2人がカルとジュリー)。キングリーは、立ち上がると、魅入られたように窓に近づいていく〔床まで窓なので きわめて危険〕。それに気付いたダウナーが中に引き入れるが、取締役会は翌日まで延期になった。
  

キングリーは海辺に建てられたモダンなダウナーの邸宅に滞在する。ダウナーは商談でシドニーに行って不在。マデリンは自分の部屋に閉じ籠もって、パソコンにかかりきり。キングリーが、いきなりドアを開けて話しかけると、「決まりでしょ。鍵をかけないかわり、ちゃんとノックする」とピシャリ。キングリーは、改めて開けたドアをコンコンとノックする。マデリン:「読んでくれた?」。「今は、お前のパパの会社だ」。「前は、おじちゃんのでしょ。おじいちゃんとママの」。「すぐに、お前も、4分の1の権利を持ってパパと討論できる」。「それじゃ、遅すぎるの。彼ら、西オーストラリアの半分を掘り起こしちゃうわ。水路を壊し、先住民の自治区を破壊する。そんなの間違ってる! 何も分かってない」。「私にどうしろと?」。「止めさせて!」。「できない」。「他のみんなと同じね。腑抜けよ!」。夜、遅くなり、先ほど言い過ぎたと反省したマデリンは、窓際にいるキングリーに近づいていき、「さっきは、怒鳴ってごめんなさい」と謝る。「おじいちゃんのせいじゃないことは分かってるんだけど、腹が立っちゃって」。「私も、かつて、お前みたいに怒ったことがあった。それは、私には とても大事なことだった」。そう言うと、キングリーは自分の子供時代の話を始める。「私が育った浜辺には、鳥たちが一杯いた」(1枚目の写真。ガラス越しに外から撮った映像)。「私は、父のことが許せなかった。今のお前のように。怒って、口もきかなかった。私は…」。ここまで話すと、「なぜ、こんなことを話し始めたんだろう。もう寝なさい」と話を打ち切ろうとする。マデリンは、「浜辺のこともっと話して。ママは何も話してくれなかった。お願い」。ここから、本編が始まる。「そこは、90マイル・ビーチと呼ばれていた。私は、子供時代、ずっとそこで暮らした」。画面も昔に戻り、簡単な桟橋に小さな漁船をつけた父と息子の姿が映る。「私が住んでいたのは粗末な小屋で、低木が一面に生えた長い砂洲のような場所に建っていた」(2枚目の写真、矢印は桟橋を歩くマイクと父)。「クーロン〔アデレードの南南東役100キロ、メルボルンの北西役550キロ、映画のロケ地もここ〕のすぐ南。東に浅瀬が伸び、西に大海が拡がっていた」(3枚目の写真、2枚目の小屋の映像から連続してこの場面になる)。「町から離れていた。パパは、他人と会うのを避けていた。何日も、何週間も、誰にも会わなかった。私は、昼間は海で過し、夜は小屋が学校になった」。ここで独白は終了し、マイクがたどたどしい発音で本を読んでいる場面に変わる。映画の舞台がいつ頃かは示されないが、2人の俳優の実年齢の差から考えると、1960年頃であろう。
  

再び独白が入る。「朝になると、私は鳥たちを眺めるのが好きだった。そこは、パパと私には厳しい場所だったが、鳥たちにとっては『わが家』だった」。マイクは、砂洲の中の窪地にあるペリカンの繁殖地に近づいて行く(1・2枚目の写真、矢印)。マイクは、ペリカンの中を歩いて行く(3枚目の写真)。マイクは、この土地にいる限り、決して靴は履かない。いつも裸足だ。砂が足に心地よいのだろう。
  

「私は、他の生き方をまるで知らなかった。世界から完全に切り離されていた」(1枚目の写真)。「だが、ある日、世界の方からやって来た」。この言葉の時だけ現在に戻るが、再び過去に戻る。マイクが海辺で、小鳥の死骸を拾って見ていると、誰かに見られている気がする(2枚目の写真、矢印はアボリジニの男性)。振り向いたマイクは、闖入者と見合う(3枚目の写真)。その時、猟銃の音が響き、マイクは何事かと音のした方を心配そうに見る(4枚目の写真)。マイクが再び男のいた場所を振り返ると、そこには誰もいなかった。
   

父は、小型漁船に乗って、近くにある唯一の町に行く。クーロンの近くで、海に面していて、鉄道が通っているのはグールワしかないので、どこで撮影したかは別として、設定はグールワであろう。私は鉄道ファンではないが、1960年に蒸気機関車がクラシックな客車を牽いていくシーンに目を疑った(1枚目の写真)。これは1920年代に南オーストラリア鉄道に導入された機関車だが、資料によれば1971年までローカル線で走っていたというから、時代考証としては間違ってはいない。走っている車の中には1950年代のホールデンもあり、これも正しい。父は、魚を売って買ったジャガイモや野菜の入った木のカートを押し、店屋に行き(2枚目の写真)、油の缶のようなものを買う。夫婦でやっている小さな店だが、奥さんが、父を見て、「また来たわ」と夫に言うので、たまにしか来ないのだろう。夫:「必需品なのさ」。妻:「男の子は?」。「元気だと言ってた」。「子供を1人で住まわせておくなんてよくないわ」。「放っとけ」。この会話から、マイクと父が2人だけで僻地に住んでいることは町の人も知っている。心配はするが、悪感情は持っていない。小型漁船で戻って来た父は、マイクに、「町中で話題になってる。1万エーカー〔40平方キロ〕だ。ハンターは、撃ちたがってる。保護区ってものにしようとしてる人たちもいる。鳥には安全な場所だ」と話す。「どうなると思う?」。「もうすぐ投票だ。小ざかしい連中は、ハンターにつくだろうな」(3枚目の写真)「鳥のことなんか、どうでもいいのさ」。
  

マイクは、手製の「帆つき板」を棒で押して海岸沿いに進んでいる。すると、テントが張ってあり、焚き火からは煙が出ている。そこで、マイクは、「筏」を岸に寄せることにする(1枚目の写真、矢印はテント)。岸に上がると、砂の上に貝殻のようなものが多数落ちている。何だろうと思って見ていると、背後から、「それ、貝塚だ」という声がする。マイクが驚いて立ち上がると、そこには前に見たアボリジニがいた。「白人の言葉だと、『貝塚』だ。俺たちここで貝殻を砕いてた。美味いでな」。そして、「俺、怖いか?」と訊く。「ううん」。「名前、フィンガーボーン・ビルだ」と言って手を差し出すが、マイクは警戒して握らない。「お前の名、知っとるか?」。マイクは首を振る。「マンドウ・ンガワリ〔Mantawu Mgauriri〕。強い風の中で歩く。見たぞ」。「僕も、あなたを見たよ」。「そうか?」。フィンガーボーンは二度目に手を差し出し、今度はマイクも握る(2枚目の写真)。「もうこれで、知り合い。怖がらなくていい。俺たちの仲間、ここらで住んでた。ずっと昔。白い奴ら いない。何千年も、黒い奴らばかり」。「その時、僕がここに住んでたら、僕も『黒い奴』だったよね」。「そうだ。お前、いいこと言うな」。マイクが笑顔になる(3枚目の写真)。
  

その時、また銃声が聞こえる。フィンガーボーンは急いで音のした方に走って行く。マイクも付いて行く。銃声は何発も響く。2人が海岸に行くと、そこには撃ち落とされたペリカン〔コシグロペリカン〕の死骸が6羽も固まっていた(1枚目の写真)〔食用にもならないのに、撃つ楽しみだけのために殺すんだろうか?〕。フィンガーボーンは、「すぐ、嵐がくる」と言う。「ペリカン 殺されると、いつも嵐起きる」。マイクは、その中に雛が3羽いる巣を見つける。「生きてるよ。他の鳥が世話してくれるんだよね?」。「それ違う、マンドウ・ンガワリ」。「死なせたらダメだ」。「小さすぎ。何もできん」。「死なせない」。マイクは そう決然と言うと、セーターを脱ぎ、雛をそっと持つと(2枚目の写真)セーターの上に置き、寒くないように包んで、大事に抱いて(3枚目の写真、矢印)家に持ち帰る。
  

ここで、一旦、現在に戻る。夜遅くまで話していて、いつしか睡眠で途絶え、朝になっていたという設定だ。メイドが朝のコーヒーを持って来て、ソファでそのまま眠ってしまったキングリーが目を覚ます(1枚目の写真)。そこにマデリンがやってきて、「鳥のこと、もっと話して」と頼む。「次にどうすればいいか、全く分からなかった。どうやったら、雛を生かしておけるのか」。これだけのシーンで、再び過去に戻る。家に付いたマイクは、木の箱を捜してきて家の中に入れる。そして、フィンガーボーンには、「草を採ってきて」と頼む。フィンガーボーンが戸口まで草を持って来て手渡す。「入って来て」。「父さん、いるか?」。「いないけど、いいんだ。入って」。「ここ、彼の家。まだ会ってない。外にいる」。マイクは、木箱に敷いた草の上に、雛を1羽ずつ そっと入れる。フィンガーボーン:「何、食べさせる? 魚は食べられん。まだ雛だ」「あいつらのママみたいにしないと」。マイク:「ママみたいになんかできないよ。だって、雛はママの口の中に頭を突っ込み、ママは…」(2枚目の写真)。「潰した魚、吐き出す」。「そんなことムリだ」。ここで、マイクは名案を思いつく。それは、小型漁船の船外機を外してきて、バケツに一杯入れた魚を 回転するプロペラで粉々にしようというものだった(3枚目の写真)。フィンガーボーンは、「いい考えじゃない。絶対、悪い考えだ」と反対するが、マイクは、「やってよ!」と強行する。プロペラがバケツに入った途端、小屋の窓に、飛び散った砕けた魚が張り付く。2人とも、全身、魚の破片と汁まみれ。それでも、マイクは気にしない。バケツの底から吸いとってきた汁をスポイトに入れて、雛の口の中に入れる(4枚目の写真、矢印)。「飲んでるよ」。「好きなだけ飲ませろ。雛、強くなる、マンドウ・ンガワリ」。小屋の外では激しく雨が降り出す。「ペリカン 殺されると、いつも嵐起きる」の言葉通りだ。フィンガーボーンは雨の中で 魚まみれで悪臭のする体を洗う〔服は着たまま/それで汚れが落ちるくらいの叩き付けるような雨〕
   

雨がやんだ頃、父が帰ってくる。小屋の中の強烈な臭いに、「この臭いは何だ? 魚を切り刻んでたのか?」と訊く。「パパ、見せたいものがあるんだ。船外機を使って食べ物を作ったんだ。ちゃんと食べてるよ」。そう言って、箱に入れた雛を見せる。「どこで見つけた?」。「砂の丘。ハンターがママを殺したんだ。僕が世話しないと死んじゃうって、フィンガーボーンが言ったから…」。「誰?」。「フィンガーボーン。僕を手伝ってくれた」。父が窓の外を見ると、アボリジニが背を向けて座っている。「小屋には入れないんだって。パパが家にいないから、良くないとか言ってた。僕の友達だよ。雛のママみたいにやれって言うんだ。雛の喉の中に吐き出す。そんなことできないよ」。「そうだな」。「だから、こうしたんだ。飼っていい?」。「一番小さいのは、かなり弱ってるみたいだな」。「お願い、ちゃんと世話するから」(1枚目の写真)。「様子を見てみよう」。そう言うと、父は、小屋の外に行き、フィンガーボーンに、「グッダイ〔オーストラリア式の発音〕」と声をかける。フィンガーボーンも立ち上がる。「グッダイ」。「トムだ」。「世捨て人トム。みんな、そう呼んでる」。「知ってる」。父は、船外機を見て、「これ、あんたの考え?」と訊く。「違う。手伝っただけ。マンドウ・ンガワリの考え」。「何て?」。「マンドウ・ンガワリ。彼の名前」。「あの子が、こんなに熱中したのは久し振りだ」。「彼、ちゃんと鳥 世話してる」。「今夜、生き延びるといいんだが」。「朝、また来てもいいかね? どうなってるか見に?」。「いいとも〔I don't see why not〕」。人嫌いの父も、息子を大事にしてくれるアボリジニには心を許したようだ。夜になり、父が食事をしていても、マイクは、弱っている一番小さな雛に魚汁を飲ませようと必死だ。そして、父の使っていない襟巻きを借りると、それで雛をくるんでやる(2枚目の写真)。さらに、ベッドから毛布と枕を持ってくると、箱の隣に横になる。「ベッドで寝ないのか?」。「ここで、一緒にいたいんだ。ママが一緒だって思わせないと」。「いい考えだ」。夜がふけても、マイクはずっと一番弱っている雛を見守り、「お願い、死なないで」と囁き声をかける(3枚目の写真)。
  

翌朝、今度はフィンガーボーンも小屋の中に入る。箱の中には2羽しかいない。やっぱりダメだったかと思うフィンガーボーンに、マイクは、胸に抱いた3羽目を見せる。襟巻きにしっかりくるんである。「ベッドに入れたんだ。その方が暖かいでしょ」。ベッドから起きてきた父に、「1羽も死ななかった」と嬉しそうに言う(1枚目の写真)。ここで、現在に移行。マデリン:「じゃあ、うまく育ったのね」。キングリー:「鳥は丈夫だからな」。そこに、お迎えの車が到着する。祖父が、そのまま議決に行ってしまうと思ったマデリンは急に機嫌が悪くなり、家から出ていってしまう。キングリーは、後を追って行き、「まだ早いから、ちょっと運動しないとな」と行って、海の方に一緒に歩き始める(2枚目の写真)。そして、話を続ける。「私は、日に8回雛に食事を与えた。パパも手伝ってくれた」。ここで、また過去に戻る。父は、船外機で魚まみれにならなくて済むよう、「トムのねじり機」なるものを作ってくれた。それは、円筒缶の蓋に攪拌用の尖った棒を何本も付けた器具で、缶に魚を入れ、蓋をして回転させれば、周り汚すことなく魚をぐちゃぐちゃに出来る優れものだった。マイクは、喜んで蓋を回転させる(3枚目の写真、矢印は回転用のハンドル=軸を曲げることで簡単に回転させられる)。
  

それから、どのくらい日が経ったのかは分からないが、雛にはうっすらと羽毛が生え、かなりの大きさになっている。それでも、1羽だけはマイクのベッドの中で一緒に寝ている。まだ暗い早朝、マイクは「トムのねじり機」を使って朝食を用意する。スポイトの代わりになるものをマイクが捜していると、父がウィスキーを飲むのに使っていた小さなグラスが目に入る。そのグラスで、缶のそこに溜まった液体をすくって与えようとすると、騒音で目が覚めた父が、「それ、俺のグラスか?」と訊く。訊いただけで、勝手な流用を咎めないところがとてもいい。1羽の雛が羽の生えていない翼をバタバタ動かしている。「あいつ見てみろ。まるであそこが自分の場所みたいだ」。「あれ、『プラウド〔威張り屋〕』だ」。「名前 付けたのか?」。「うん。こっちは『ポンダー〔思案屋〕』。すごく賢いから」。「じゃあ、あの小さいのは『ピヨピヨ』か?」〔ペリカンなのですべて“P”で始まっている〕。「『パーシヴァル』だよ。僕が読んだ本に出てきた小さな男の子。一番小さくて弱いだけど、死なないんだ」。「じゃあ、大きく強くなるまで育てるんだな」。マイクは、父から渡されたグラスを持ち 雛たちを撫でる(1枚目の写真)。父が魚を獲りに行き、マイクが「トムのねじり機」でエサに変える。そして、グラスですくって雛に与える(2枚目の写真、矢印)。マイクが抱える魚入りのバケツは次第に大きくなる(3枚目の写真)。
  

そして、さらに時は経ち、桟橋を歩くマイクは、両手にバケツを下げている。もう「トムのねじり機」は使っていない。雛とは言えない幼鳥が、魚を丸ごと飲み込んでいる。さらに数週間が経ち、ペリカンは成鳥と区別がつかないくらい大きくなっている。3羽のための魚の用意も大変だ(1枚目の写真)。ペリカンは、父が持ったバケツに飛びかかり、中の魚を食べようとする。父は、仕方なくバケツを地面に置き、ペリカンはむさぼるように食べる。父:「一日で10ポンド〔4.5キロ〕だ。10ポンドだぞ。俺たちの1週間分より多い」。マイクは 何となく肩身が狭い(2枚目の写真)。しかし、ペリカンたちだけになると、浜辺で精一杯遊ぶ(3枚目の写真、脇にいるのがパーシヴァル)。
  

ある日、マイクが3羽を引き連れて砂地を歩いていると、映画では、久し振りにフィンガーボーンが登場する〔実際には、頻繁に会っていたであろう〕。彼は、砂をすくって何事かを口ずさんで砂を周りにばらまき、その手で胸を擦る。「何してるの?」。「大地と話しとる。敬意を払うため」(1枚目の写真)。次は、別のエピソード。父が、朝、屋外のトイレに入ろうとすると、3羽がついてくる。父は、「今日は、どこにも行かんぞ。朝めしは、自分で取るんだな」と言うと、トイレのドアを閉める。しかし、トイレに鍵はない。だから、ペンギンが長い嘴を突っ込むと、簡単に開いてしまう。父の罵り声を聞いたマイクが飛び出してきて、追い払おうとするが全く言うことを聞こうとしない(2枚目の写真、矢印は開いたドア)。その日か、あるいは別の日なのか、父は、マイクとペリカン3羽を小型漁船に乗せて町に行く。ペリカンを連れたマイクの姿を町の人たちが珍しそうに〔暖かい目で〕見ているので、恐らく初めてなのであろう(3枚目の写真)。
  

ある日、マイクが小屋で、いつも通り、パーシヴァルを抱いていると(1枚目の写真)、父が重要なことを話し始める。「もうそろそろ、帰してやらないとな」。「どこに帰すの?」。「いるべき場所だ」(2枚目の写真)「もう これ以上 飼い続ける余裕はないし、できたとしても 『囚らわれの身』じゃな…」。「『囚われ』じゃないよ」。「誤解するな。自然の生き物には自由が必要だ。この鳥たちは、30年か40年生きられる。ずっと世話をし続けることなどできん。自分たちの仲間と一緒に暮らし、家族を作らないと(3枚目の写真、目の光は涙)。「お前は3羽の命を救った。お前がこれまでにやった、最も素晴らしいことだ。だが、もう自由にしてやらないと」。「いつ?」。「飛べるようになった時だ。これから教えないと。生きるすべも学ぶ必要がある。こいつら、何もかもバケツから出てくると思ってるからな」。
  

マイクは、まず、食べ物となる魚の獲り方から教える。一緒に海に入って行き、潜水用のゴーグルをつけて浅い海に頭を入れ(1枚目の写真)、泳いでいる魚を口で咥えて獲ってみせる(2枚目の写真、矢印)。「さあ、君たちもやってみろ」。何度もやってみるが、ちっとも効果がないので、今度は、獲った魚を海中の棒に刺して、それを食べさせようとする。マイクの必死の努力を、父とフィンガーボーンは楽しそうに見ているが(3枚目の写真)、手伝おうとはしない。フィンガーボーン:「いい子だ。あんた、幸せな人だ」。父:「なぜ、ここに来たんだ?」。「あんたと同じ。世の中、気に入らなかったから」。そのうちに、3羽とも、水中に刺した魚は食べられようになった。これで動いている魚が獲れるとは思えないが、マイクは、「パパ、上手くいったよ」と報告する。
  

マイクが飛び方を教える前に、フィンガーボーンは体に縞状に白い染料を塗り、「ペリカンは、『ナーティ』。俺の友だち。遥か昔、こいつら、人間の男だった。カヌーに乗り見張りつとめた。だから、『ノリ』、ペリカン殺されると嵐起きる。俺の親爺ナガイ、そう言った。お前が『ナーティ』の世話したら、『ナーティ』 お前を世話してくれる」。そう言うと、ペリカンの羽の動かし方を腕でやってみせる。そのパターンを覚えたマイクは、長く続く砂浜に3羽を連れて行くと、教えてもらったように腕を飛ぶように動かしてみて、飛び方を教えようとする(1枚目の写真)。何度かやっているうちに、プラウドが飛び立っていく(2枚目の写真)。それを見て、ポンダーもすぐに羽を広げて走り始める(3枚目の写真、左端はパーシヴァル)。
  
結局、その日、パーシヴァルが飛ぶことはなかった。夜になり、父が、「今日は、どうだった?」と尋ねる。「プラウドとポンダーが飛べたよ。パーシヴァルは明日だ」。「先生がいいからな」。褒められても、マイクは、パーシヴァルのことが心配で喜べない。その時、ベッドに横になったマイクが手に取ったのが、ロケット。中には、母とマイクの妹の白黒写真が入れてある。昔の記憶がよみがえる。小さかった頃のマイクが、出て行く車に向かって手を振っている。車の後部座席に座った妹が、マイクに向かって手を振る〔これが、何を意味するかの説明は一切ない〕。翌日、マイクは砂浜に腰を降ろしてパーシヴァルを抱いている(1枚目の写真)。「君にも絶対できるよ、パーシヴァル。兄さんたちが飛んだの見たろ」(2枚目の写真)。マイクは立ち上がると、パーシヴァルの前で腕を振ってみせる。すると、パーシヴァルも見事に飛び立った(3枚目の写真)。「よくやったな!」。
  

場面はすぐに変わり、マイクが父と一緒に小型漁船に乗っている。舟には3羽のペリカンも一緒だ。マイクが、「パーシヴァル、置いておけない? きっと、どこにも行かないよ」と悲しそうに尋ねる。「まあな」。父親の表情からして、この「OK」は「NO」に近い。そこで、乗っている間じゅう、マイクはパーシヴァルを抱きしめる。舟が、ペリカンの群れがいる場所まで来ると、父は停める。そして、縁(へり)の上でいつでも飛び立ちそうにしている2羽に向かい、「さあ、いいぞ、うまくやれ」と声をかける(1枚目の写真)。「さあ、行け。もう、自分のことは自分でする時だ」。追い払うように手を振り、「ほら、行くんだ〔Off you go〕」と促す。2羽はプラウド、ポンダーの順に飛んでいき、ペリカンの群れに加わる。父は、パーシヴァルをぎゅっと抱いているマイクに、「マイケル」と声をかける。マイクは、パーシヴァルに首に顔をすりつけると(涙を拭ったのか?)、「さよなら」と囁く(2枚目の写真)。「リーダーになれよ」。マイクが手を離すと、パーシヴァルは、舟から10メートルほどのところまで飛んでいって着水する。如何にも行きたくなさそうだ。マイクは、「何、待ってるんだ。行けよ!」と大きな声で促すが、顔は泣いている(3枚目の写真)。パーシヴァルは飛び去って行った。
  

ここで、現在に変わる。マデリンが、「どうせ、そうなると分かってた」と物知り顔で、批判的に言う。キングリーは、「どんな良い話も、一度は悪いことが起きるものだ」と諌める。「そうなの?」。キングリーは、「ここで待ってなさい」というと、スマホでカルに電話をかける。キングリーは盟友のカルに、「我々で作った会社の定款のコピー、持ってるか?」と訊く。「もちろん」。「取締役会に持ってきてくれないか?」。「何を企んでる?」。「持ってくるだけでいい」。「マイケル、3人の取締役がいれば、議題変更が要求できるってトコだな」。「ジュリーにも話してくれよ」。「彼女は、マルコムに入れるぞ。亡くなった旦那と似てるからだと思う」。「頼むよ」(1枚目の写真)。キングリーは孫娘のところに戻ると、話を続ける。「こんなに悲しかったことは初めてだった。こんなに寂しいと思ったことも…」(2枚目の写真)。翌日、マイクがペリカンの繁殖地の中を歩きながらパーシヴァルを捜していると、銃声が響き渡る。夕方、マイクは父と一緒にフィンガーボーンのテントに夕食に呼ばれる。マイクが父に、「1日中、パーシヴァルを捜してた」と打ち明けると、「そんなこと、しちゃいかん」と叱られる。「どこにもいなかった。3羽とも。代わりにハンターたちを見たよ。巣のすぐ近くで」。「心配するな。投票は来月だ。運が良ければ、保護区になるだろう」(3枚目の写真)。夜も遅くなり、フィンガーボーンは、1人でこの土地に「逃げて」きた理由を打ち明ける。それを聞いた父も、昔の悲劇を簡単に離す。「ジェニーと、まだ小さい娘のベルとピクニックに行った。2人は、車でアイスクリームを買いに出かけた。ジェニーは、運転に慎重な女性だった。時々、誰も愛さなければ良かった、と思うんだ」。以前、出てきた「車の後部座席に座った妹」の思い出は、この時だったのだ。そして、恐らく、2人は交通事故で死亡し、父は世を捨てたのだろう〔これ以上、映画の中での説明はない〕
  

翌朝、マイクが朝起きて、寝ぼけながら屋外トイレに入ると、トイレのトタン屋根の上で、パーシヴァルの鳴き声がする。マイクは、すぐに飛び出てきて、姿を確かめると、「パパ!」と叫ぶ。「どうした?」。「パーシヴァルだ! 戻ってきたんだ」(1枚目の写真)「ここにいて いいでしょ?」。「1羽だけなら、養っていけるだろう」。ここで、独白が入る。「この日から、パーシヴァルは二度と私から離れようとしなかった」。パーシヴァルを抱きながら 嬉しそうに父を見るマイクが可愛い(2枚目の写真)。独白:「1時間たりとも… 1分たりとも… 決して」。マイクとパーシヴァルの交流がいろいろな角度から紹介されるが、大自然の真っ只中ということが良く分かるこのシーン(3枚目の写真)が一番好きだ。
  

マイクとパーシヴァルの戯れで一番 仲の良さが分かるのが、砂の斜面を橇で滑り降りるマイクを、半分飛びながらパーシヴァルが追いかけるシーン(1枚目の写真)。どうやって撮影したのだろう? カイクが筏にパーシヴァルを乗せているシーンも微笑ましい(2枚目の写真)。筏の上で、マイクはロケットの写真をパーシヴァルに見せ、「これはママ、こっちがベル。会いたいよ〔I miss them〕」と話す。「パパを寂しがらせるから、このことは言わないんだ。もう、何もできないしね。2人が生きてたら、きっと君が好きになってたよ、パーシヴァル」(3枚目の写真)。
  

マイクと父は、久し振りに町に向かう。町では、1ヶ月後に控えた投票に向け、ハンターが保護区に反対するよう呼びかけている(1枚目の写真、矢印)。2人がいつもの店に行き、歓迎を受けていると、ハンターの息子が連れた獰猛な犬がパーシヴァルの方に寄って来て吠えかかる。ハンターは、「町に鳥を連れて来て、投票を稼ぐ気か?」とマイクを脅す。「そんな…」。「気をつけろ。事故が起きるかもな。ちゃんと警告したぞ」。実に、嫌な奴だ。銃社会の弊害が端的に現われている。それから数日後、嵐の翌日。マイクとパーシヴァルが海岸を歩いていると、捨てられた缶ビールが浮いている。ハンターは、環境破壊者でもある。そして、銃声が響く。それに反応したパーシヴァルは、マイクが止めるのも聞かず、飛んでいく(2枚目の写真、矢印)。そして、ハンターのところに行くと、死んだペリカンを持ったハンターを怒って突っつく。ハンターは、パーシヴァルに向かって銃を向けるが、そこに間に合ってマイクが駆けつけ、ハンターとパーシヴァルの間に入る。ハンターの息子は父を止めようとする〔父親ほど腐ってはいない〕(3枚目の写真、矢印はパーシヴァルの嘴)。マイクは、「こんなに殺して」と責める。そこに、フィンガーボーンも駆けつけ、「白い奴ら」を追い払う。マイクが、ペリカンの死骸を見ていると、雷鳴が轟く。嵐の前触れだ。黒い雲が現われ、雷が光る(4枚目の写真、矢印は、分かりにくいが雷光で明るくなった雲)。これは、惨事の前触れだった。
   

映画のクライマックス。マイクは漁に出た父のことが心配になる。天候は急速に悪化。沖合いで漁をしていた父も、モーターを動かして帰り始める。海岸まで走ってきたマイクが見たものは、岸に打ち寄せる荒い波と、真っ黒な空、そして雷光だった(1枚目の写真、矢印は雷光)。遠くの海にポツンと点のように父の舟が見える。その舟は、荒波でモーターが止まってしまう。進めなくなった舟は、それこそ、木の葉のように荒波に翻弄される(2枚目の写真、矢印は父)。この瞬間、写真の左側に写っている高い波で、舟は転覆し、父は海に放り出される。マイクは、「パパ!!」と叫ぶ。そして、「フィンガーボーン、手伝って」と言うと、近くに置いてあった箱からロープを取り出す。そして、かぶっていた帽子を脱ぐと、穴を開け、そこに釣り糸を通して結ぶ。「パーシヴァル、ここに来て!」。マイクは、降りて来たパーシヴァルに、「これを、パパまで持ってくんだ」と言って、帽子を見せる(3枚目の写真、矢印)。そして、帽子を海に向かって投げる。パーシヴァルは帽子に向かって飛んでいき、上手に空中でキャッチする(4枚目の写真、矢印は帽子、パーシヴァルは口を大きく開けていて、帽子の先端に触れているのは上側の嘴、その下に短く写っているのが下の嘴)。釣り糸は、棒に糸巻き状に巻かれているので、パーシヴァルが飛ぶのを邪魔しない。パーシヴァルは真っ直ぐ父まで飛んで行くと、帽子を真上に落す。海岸では、釣り糸とロープの先端を結んでいる。父は、釣り糸をたぐりよせる。ロープは、マイクとフィンガーボーンが2人掛かりでスムーズに繰り出す。ロープは父に届き、父は、ロープ先端の輪に自分の体を入れる。後は、2人掛かりで父を岸まで引っ張るだけ。力は要るが、確実に救助できる。足が立てる場所まで来た父を見たマイクは、「パパ!」と叫んで走って行く(5枚目の写真)。そして、かたく抱き会う。
    

ここで、現在。マデリンが、「信じられない」と驚く。「奇跡だった。私のパパはペリカンに救われたんだ」。「じゃあ、何もかも上手くいったのね?」。「まだ終わりじゃない」。「どういうこと?」。「見せたいものがある。少し歩くぞ」。「取締役会に行くの?」。「行かない。話をしていて気がついた。大人になると、一番大切なことすら忘れてしまうことがある。ペリカンのように生きることだ」(1枚目の写真)。「嵐の後どうなったの?」。「すべてが変わった。噂は野火のように拡がり、新聞やラジオが来て話を聞いて行った。パーシヴァルは有名になった。私もな」(2枚目の写真、「ペリカン、嵐から男を救う」の見出し)。過去。いつもの店の前で、パーシヴァルを抱いているマイクがいる。大勢の町の人が好意的に取り囲み、中には写真を撮っている人もいる(3枚目の写真)。「町中が、パーシヴァルと私のことでハッピーだった」。しかし、ハンター親子だけは不機嫌だ。店の主人が、集めた募金を父に見せる。「これだけのお金があれば、あの子を聖アンドリュースに入れられるぞ。オーストラリアで最高の全寮制学校だ」。「マイケルは どこにも行かん」。今度は、店の奥さんが、「あの子のためよ。ちゃんとした教育を受けさせてあげないと」と注意する〔お陰で、将来は大企業の社長になった〕
  

現在。マルコムから電話が入る。「どうなってるんです?」。「マディーに見せたいものがある」。「取締役会まで後1時間ですよ。ここにいてもらわないと」。「喚くなよ、マルコム。私は大人だぞ」。「1年がかりで契約に漕ぎつけたんですよ。台無しにするつもりですか?」。「用意が整ったら、電話してくれ。モニタで投票に参加する」。「何をしてるんです?」。「君の家庭を救おうとしてる」。そこで電話は切れる。2人の前にはヘリコプターが。驚くマデリンに、キングリーは、「一緒に来るか? それとも、学校に戻りたいか?」と訊く(1枚目の写真)。ヘリコプターに先に乗ったのはマデリン。行く気十分だ。ヘリコプターが向かった先は90マイル・ビーチ。そして、過去。マイクは、父に激しく反論している。「行くもんか!」。「こんなチャンスはないぞ」。「チャンスなんか、どうでもいい。ここに いたいんだ!」。「このまま ちゃんと教え続けるなんて、俺にはできん」。「イヤだ、ここにずっといたい!」。「世界は広い。やることが一杯ある」。「そんなのどうだっていい!」。キングリーは、マデリンを伴い、昔住んでいた小屋に近づいていく〔キングスリーは、昔のように裸足になっている〕。約60年ぶりの再会だ。父は恐らく死ぬまでここで暮らしたであろうから、誰も住まなくなってから20~30年は経っているに違いない。残っているのは、暖炉の石積みだけだ。「鳥たちはどこ?」。「営巣地は向こうだ」(2枚目の写真、矢印は暖炉の石壁)。「あの時は、気付かなかったが、パパは私に良かれと思ってやってくれたんだ」。ここで、再度過去。父とパーシヴァルが並んで戸口に座っている。「あの子は頭がいい。教育が必要だ。人生は、これだけじゃないと見せてやるんだ。正しいと思ったことはやらないと。たとえそれで憎まれたとしても」(3枚目の写真)。父のパーシヴァルへの独り言だ。マイクは、父と一緒にいたくないので、小屋から離れた所で泣いている(4枚目の写真、右頬に涙)。
   

キングリーが、昔の呼び名「マンドウ・ンガワリ」を口ずさんだ時、電話がかかってくる。マルコムからだ。「みんな揃ってますよ。投票の容易はいいですね?」。「いいとも。カル・エヴァンズはいるかね?」。マルは手を上げ、「マイケル、どこにいるんだ?」と訊く。「私は過去にいる」。そして、スマホを動かして、周囲の景色を見せる。「私も年をとった。半分ボケたかもしれんが、まだ物事を正す力は残っている〔I still got a few teeth〕。定款のコピーは持って来てくれたか?」。「あるぞ」。「ページ27Aだ。追補の18Bに、書いてないかな、『取締役会は、例外的な事態が起きた時に自律的な再考察ができるよう、投票の延期を要求する権利がある』と?」。「あるとも。もし3人の取締役が要求すれば」。「で、3人になるかな?」。カルとジュリーは受諾する。言いだしっぺはキングリーなので、これで3人揃ったことになる。マルコムには、何のことやらさっぱり分からない。「何を言ってるんです? 延期の理由などありませんよ。例外的な事態など…」。「私の孫、あんたの娘は会社の株式の25%を持っている。その彼女が、神経をやられてしまったらしい」。「何ですと? ありえない」。そこで、マデリンが画面に出て、「そうなの、もう虚脱状態。すごく悪いの」と、それらしく言う。キングリー:「『例外的な事態』を宣告する」。マルコムは、「事態」が終息すれば投票で勝つというが、キングリーは、「もうちょっと長く延期すれば、マディーは18になる」(1枚目の写真)「そしたら、そこに座ってあんたとやり合える」と痛いところを突く。そして、反論するマルコムを無視し、「チャオ」と言って接続を断つ。マデリンは予想外の展開に大喜び。キングリーは、「これで 遅らせることはできた。だが、彼の心を変えるのはお前の役目だ」と諭す。「1年、口なんかきいてやらないから」。「ダメダメ、話すべきだ。お前のお父さんだ」。「分かってる〔Don't I know it〕」。「彼は、悪い人間じゃない。実務家すぎるだけだ」。そして、キングリーの悔いが始まる。「あの喧嘩以後、私はパパと和解しなかった。ここにも二度と戻らなかった。怒りがそうさせた。人生で最大の間違いだった。お前には、同じ道を辿って欲しくない」(2枚目の写真)。「分かった。話してみる」。ここで、マデリンも裸足になる。「おじいちゃん、パーシヴァルはどうなったの?」。キングリーは、マデリンに黙るよう仕草で示すと、1人前に進み出て、泣いているマイクの隣に座る(3枚目の写真)。右端にはマデリンの足が見えている。これは、現在のキングリーが、過去の自分の悲しみを想い出した映像だ。
  

追憶はさらに進む。いよいよ出発の日。父はマイクの鞄を持って荷物を持って戸口から出てくると、外の柱に力なくもたれているマイクに向かって、「パーシヴァルに、さよなら言いたくないのか?」「1ヶ月、どうなるか やってみろ」と声をかける。何を言っても返事がないので、「行くぞ」とボート〔小型漁船は嵐で沈没した〕に向かう。残されたマイクは、柱にもたれたまま動こうとしない(1枚目の写真)。その時、銃声が響く。すぐ前の網干し台にとまっていたパーシヴァルが飛び立ち、銃声の方に向かう。マイクは、「パーシヴァル、やめろ!」と叫んで、急いで後を追う。パーシヴァルは、ペリカンを殺している非道なハンター目がけて低空飛行し(2枚目の写真、矢印)、脅して止めさせようとする。再度攻撃を試みるパーシヴァル。殺そうと銃で狙うハンター。マイクは、「あれはパーシヴァルだ!」と大声で叫び(3枚目の写真)、射撃を止めさせようとする。しかし、ハンターは、その結果がどうなるか考えもせず、パーシヴァルを撃ち落す(4枚目の写真)。ハンターは、「攻撃された。見てたろ。やむを得なかった。警告したろ」と、謝罪もせずに去って行く。
   

傷付いたパーシヴァルを抱きしめたマイクは、「守ってやれなかった。あんたのせいだ!!」と、責任のない父を責める(1枚目の写真)。パーシヴァルを小屋まで1人で抱いて戻ると、必死になって介抱する。夜になり、マイクは瀕死のパーシヴァルに、「君は、最高の友だちだよ。お願い、死なないで」と頼む(2枚目の写真)。しかし、その願いも叶わず、パーシヴァルは目を閉じる。「なぜ あんなこと〔ハンタ襲撃〕をしたか知ってるぞ」〔仲間のペリカンを救うため→パーシヴァルの勇気を讃えた〕。マイクは泣き続ける。朝になり、外は悪天候で雨。その中で、フィンガーボーンが弔いの言葉を唱える中、マイクはパーシヴァルを埋葬する(3枚目の写真)。
  

その日は、終日雨だった。夜になり、マイクは、突然、「いつ出かけてもいいよ」と言い出す。父に見切りをつけた瞬間だ。翌朝、マイクはボートに乗る。途中で、フィンガーボーンが見送るが(1枚目の写真)、マイクは声もかけない。その後、ボートは、キングリーとマデリンの前を通る(2枚目の写真)。これが、キングリーの最後の思い出のシーン。このシーンを最後に現在に戻る。「結局、どうなったの?」。「パーシヴァルの死は無駄にはならなかった。私が学校に行った後、審議会はハンターがしたことを聞き、保護区を倍にした。2万エーカー〔80平方キロ/八丈島は70平方キロ〕、南半球で最大だ」。近くには案内板もあり、そこには、「クーロン鳥類保護区」と大きな字で書かれている。そして、その脇にはペリカンの銅像が。「これがパーシヴァル?」。「そうだ。彼のような鳥は、決して死なない」(3枚目の写真)。キングリーはマデリンを 営巣地を見下ろす崖の上に連れて行く。そこからは、海の上を飛び交う無数の鳥が見える。キングリーは、かつてフィンガーボーンがやっていたように砂を一掴み取ると、周囲にまき、砂の付いた手で胸を押さえる。大地に敬意を払うためだ。2人はその場に座り、仲良く鳥を眺める(4枚目の写真)。
   

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